Astrology_Arcturus

西洋占星術と精神世界の冒険

占星術の復興と論争

 

占星術天文学が本格的に息を吹き返すのは16世紀のルネサンス期まで待たねばならない。このときは、それまでキリスト教によって抑圧されてきた、さまざまな学問・芸術が鮮やかな色彩を放ちながらよみがえり、占星術天文学の分野でも比較的自由な研究が許されるようになった。だが、この両者はもはや一つにはなれず、各々、独自の道を歩みはじめる。

 

ルネサンス以降の占星術界におけるスター的存在として、17世紀のイギリスで活躍したウィリアム・リリー(1602~1681年)を挙げておこう。御用占星術師として活躍した彼は占星暦を出版して広く一般に占星術を広めていった。出版物を広告として使うという点で画期的だったが、彼を有名にしたのは、なんといってもその鑑定の的中率にある。

 

独学で占星術を学んだリリーは、情勢不穏な当時のイギリスにおいて国王の運気が最低になる時期を「1645年6月」と予想。かくしてその年、内乱において国王軍は打ち破られ、その4年後に国王チャールズ一世は処刑されてしまった。また彼には、1666年のロンドン大火を占星術によって予言して、放火容疑で裁判にかけられた逸話も残されている。判決は無罪だったが、的中しすぎる占星術師というのもなかなか苦労が多いようだ。

 

彼の用いた占星術技法は『クリスチャン・アストロロジー』という本にまとめられ、現代においても、古典的な占星術を志向する占星術師たちの座右の書となっている。

  

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 ウィリアム・リリー

 

通常、占星術では相談者の出生時のホロスコープ(天宮図)を読み解くが、リリーは相談を受けた瞬間の時間で作成したホロスコープで占う「ホラリー占星術」を得意とした。ホラリー占星術は、白黒をはっきりつけたいときに有益であり、探し物などにも効力を発揮する。

 

参考までに筆者がホラリーで探し物をしたときのツイートを以下に紹介する。

 

 

だが、ホラリー占星術の達人であったリリーのようなカリスマの存在をもってしてもなお、占星術の衰退は避けられず、かつての顧客であった王侯貴族や裕福な商人などは占星術を迷信としてしりぞけるようになっていった。

 

占星術はまさに風前の灯火――その危機を救ったのがアラン・レオ(1860~1917年)だ。彼はそれまでの複雑な占星術体系を簡略化してすっきりとした理論体系に組み替えた。それにより学問の素養のない者でも占星術を学べるようになり、結果、占星術はかろうじてその命脈を保つことになった。ただ、彼については、リリー以前の古典的占星術を支持する者からの「本来の占星術をおとしめた」という批判も少なくない。

 

20世紀の占星術の世界を象徴するのが、日本の占星術の導入期にも大きな影響を与えたマーガレット・ホーン、サビア占星術のディーン・ルディア、心理占星術のリズ・グリーン、ウィリアム・リリー以前の古典占星術の復興に務めたオリビア・バークレイといった占星術研究者たちだろう。彼らは占星術を単なる占いのツールとしてではなく、知的好奇心をかき立てる魅力的な学問として昇華することにも貢献した。

 

ただ、どの世界でもそうであるように、占星術の世界もまた一枚岩というわけではない。人の内面のプロセスを重視する現代占星術と、未来の出来事の的中を重視する古典占星術との間には近年論争がある。

 

私見では、古典占星術は「実際の現象としてどういうことが起きるのか」を見極めるのが得意であり、現代占星術は「その背後にある心理、見えない動き」を読み解くのが得意であるようだ。前者をニュートン物理学、後者を量子力学に喩えてもいいだろう。身近な現実で起きることの多くはニュートン物理学で説明可能だが、その見えざる背後には量子力学が存在している、といったイメージだ。

 

「当てる」ことにかんして古典占星術は非常に有益だが、人の複雑な心理や霊性といったことについては、現代占星術のほうが意義深い洞察を重ねてきているように思える。